アンチクライスト


アンチクライスト


まず先に言いますが、お勧めは出来ない作品です。
個人的に『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『ドッグ・ヴィル』などのラース・フォン・トリアー監督の作品は好きなのですが、鑑賞後は茫然として暫く放心状態。痛いシーンやバッドな展開は大好物ですが、この作品には追いつめられてかなり精神的にぐったりとしてしまいました。しかし、最低な映画という訳ではなく考えさせられる点が多かったのでそうなったというのも事実。


プロローグと4章の本編とエピローグに分割されて進んでいくストーリー。
プロローグのモノクロで映し出されるスローモーションの行為がとても美しい。

しかし悲劇は起こる。


子供を失った妻が心を病んでしまい、セラピストの夫は妻を治療するために森の山小屋へ。
途中まで少し退屈でしたがストーリーが進むにつれて恐怖感が増し、惹きこまれました。


山小屋では雨のようにどんぐりがバラバラと落ちる。
これが何かの比喩のように思えてならなくて終始気になっていました。
恐怖の象徴として描かれる森。
森の恐怖に脅かされたようにどんどん狂っていく妻。
妻が何かに取り憑かれたかのように狂気をあらわにして行うあらゆる行為は観ていて辛くなるほど。
「切り取り」シーンや「足かせ」シーンは目を覆いたくなるほどでした。
「性」をこれでもかというくらいむき出しにするシーンは不快というよりも恐怖の方が大きかった。


山小屋の事を劇中では「エデン」と呼んでいますが、妻は「切り取る」事で性を無くし、禁断の果実を食べる前に戻りたかったのではないでしょうか。


この映画を観るとセックスが出来なくなる!…というのを鑑賞前にどこかで目にしたのですが解る気がする。
こんな衝撃映像を観てしまった後は【セックスといえば『アンチクライスト』】と頭の中で結び付けてしまいあの恐怖シーンを思い出してしまいそうだから。


哀しみ、絶望、狂気…色々な感情が渦巻く中に「性」が絡まり映し出されるこの作品。
最初にお勧めは出来ないと言っておきながら、感想を書いているうちにあらゆるシーンに意味がある気がしてきて確認にもう一度観たい気分に…。これがラース・フォン・トリアーのマジックなのか。観に行く際は精神的に元気いっぱいの状態で観て下さいね。